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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)288号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士小林盛次の上告理由及び同じく弁護士滝内礼作、小林盛次の上告理由第三点、第六点について。

原判決は、その判文によつて、明らかのように、本件解約申入の正当性を否定する一つの事由として、被上告人は妻の外住込店員二名とともに、本件家屋に居住してわら工品の販売業を営んでいるが、上告人が、仮処分の執行をして本件家屋の階上十二畳の間に居住することとなつて以来、店舗を除いて使用可能の部分は階下六畳の間一室だけとなつたため、やむなく階段上り口の板の間を住込店員二名の寝室にあてている有様であり、もし階上全部を明渡し且つ階下の台所、便所、裏出入口を上告人に使用させるときは、被上告人は本件家屋に居住して右営業を継続することの極めて困難となるであろうことの事実を認定しているである。しかし、原判決は右事実を判示解約申入の日である昭和二三年一〇月二〇日当時のことであるとは明認していないばかりでなく、むしろ右認定に供せられた証拠に照せば右事実は右解約申入の日以後約一年あるいは二年に近い日時を経過してから後のことではないかとも疑われるのである。もしそうだとすれば、原判決は右解約申入当時に存在しない事実を斟酌して前示正当性を否定したものというの外なく(昭和二五年(オ)第一二〇号、同二八年四月九日最高裁判所第一小法廷判決参照)、また、上叙の事実を除いた原判示の事由だけでは、前示正当性を否定するに足りないものと認めざるを得ないから原判決は審理不尽、理由不備の欠点を蔵するものといわざるを得ない。従つて論旨は結局理由あるに帰する。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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